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【コラム】 外れ馬券は必要経費なのか?

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新聞で報じられる裁判には、時折ユニークな案件がある。刑事での起訴、民事での提訴時には世間に知られていなかった案件を発掘するのも司法記者の腕の見せ所だ。大阪地裁で係争中の所得税法違反を巡る刑事裁判の記事は、久々にそんなことを感じさせた。事案の概要はこうだ。見出しとリードの文を引用する。

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【当たり馬券配当30億円、外れは経費?…裁判】

競馬の馬券配当で得た所得を申告せず、2009年までの3年間に約5億7000万円を脱税したとして、所得税法違反に問われた会社員男性(39)が大阪地裁の公判で無罪を訴えている。配当を得るための「必要経費」には膨大な外れ馬券の購入額も含めるべきで、当たり馬券だけから算定したのは不当と主張。国税関係者は「競馬の必要経費が法廷で争われるのは例がない」と審理の成り行きを注視している。(2012年11月29日、読売新聞)

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記事の全てを読んでみると、男性はサラリーマン。最初は100万円規模で始めたのが、競馬予想ソフトやネットで独自の手法を駆使するうち、やがて馬券の購入が巨額になった。2007~2009年の3年間で総額28億円を超える馬券を購入し、利益は約1億4,000万円だったそうだ。国税局は当たり馬券の分を差し引いた約29億円分を「一時所得」とみなしたようで、7億近い追徴課税を通知した。

この裁判の話題性は(1)年収800万円のサラリーマンが億単位のお金を競馬で動かしていたスケールのギャップ(2)脱税を問われた会社員が外れ馬券の購入費を「必要経費」として課税不服を申し立てている主張のユニークさ―の2点にあるだろう。サラリーマンでも給与所得以外に年間20万円以上の所得があった場合には確定申告するのが一般的だが、実際の儲け分を大幅に上回る金額を課税されたとあって、男性は国税当局に不服だったようだ。毎日新聞によると、初公判では「一生かかっても払いきれない。税額を見直してほしい」と訴えたという。

経営者たちも敏感な反応

記事は、ネット上でも注目され、日頃、税金対策に追われている企業経営者たちのFacebookの反応はなかなか敏感だった。大手ネット企業に自社の売却経験があり、現在もIT業界で活躍する起業家は、「一時所得」について定めた所得税法34条2項に言及。2項では、一時所得を得るために支出した金額に関して「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」とある。この条文を法律の素人が今回の件に素直に当てはめれば、当たり馬券を買うための経費と読めなくもないことから、この起業家は、男性にやや同情的だった。

国税局OBの大村大次郎氏の著書「金持ち社長はなぜ、ムダなクルーザーを買うのか」によると、お金持ちの社長が節税対策として、会社のお金でクルーザーを購入し、社員の「福利厚生費」として申告するのだという。税務に携わる人間にとって、経費をどう解釈するかは奥深い。今回の裁判で、当たり馬券を買うための外れ馬券は経費と認められるのか?裁判所の判断の行方を注目したいところだ。

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