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【コラム】 マックからマックに転職したカリスマ社長

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2013年9月17日掲載

さる8月下旬、日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸・会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が、傘下の日本マクドナルド社長からの退任と、後任に自らの元部下でもあるカナダ法人のサラ・カサノバ氏を充てることを発表した。

マクドナルドはここ数年、販売が低迷し始め、10年目に入っていた体制の一新に入ったという見方が強い。それでも、原田氏は記者会見で「決して退任ではない。マネジメントの強化だ」と語るなど、 カリスマ社長は“引き際”にあっても力強さを誇示するようだった。

原田氏が経営者としての歩みを象徴する言葉がある。
「マックからマックへの転職」――。原田氏が2004年にアップルコンピュータ(現アップル)日本法人社長からマクドナルドへ転じた際、実業界ではこのように言われたが、どちらかといえば皮肉めいた意味合いの方が強かっただろう。全くの異業種の外食産業でどこまでパフォーマンスを発揮できるか疑問視する見方は少なくなかったからだ。

2000年代前半の日本マクドナルドは瀕死の状態だった。BSE問題や短期間での価格変動などの影響で、消費者離れが加速。全店売上高も2001年の4,389億円から2年間で3,867億円に落ち込んだ。そこへ迎えられた新たなCEOだったが、いきなり6,000億円の目標を掲げ、外食産業の内情を知らない「外様」らしい大胆な改革に着手した。

改革には実行力がいる。特に社内でも抵抗が強かったのが、MFYシステムの全店導入だ。MFYは「メイド・フォー・ユー」、最新の調理機器を使い、お客の注文を受けてから数十秒で作り出す厨房システムのことだ。かつてのマクドナルドは作り置きが主流で、MFY導入も半数程度の店舗しか進んでいなかったが、品質管理を重視する原田氏の強い意向により半年ほどで全店導入を決定してしまった。これにより今ではどの店舗でも「できたて」を味わえるようになった。2005年には「100円マック」に代表されるバリュー戦略を断行。現場は、客単価の減少にたじろいだというが、来店客数は前年同月比で多い時には2割に達するなど、離れてしまった消費者の関心を取り戻すことに成功。また、24時間店舗の開始にも疑問の声はあったものの、都心部のライフスタイルにマッチして成功した。

これらの取り組みは、ビジネススクールのケーススタディでも取り上げられ、筆者もその学びの過程で原田氏のことを知って驚嘆したクチである。かつて、アサヒビールにも銀行出身の村井勉さんや樋口廣太郎さんという「外様社長」がいて、シェア1割を割り込む程の危機的状況から新商品開発を進めてV字回復を遂げた伝説を思い起こした。最近、筆者の友人でもあるエグゼクティブ転職サイトの社長が「世の中には経営者という職業がある」という趣旨の話をしていたが、優れた経営者というのは業界業種を問わず、事業の本質を見極めて組織内外の長所短所を巧みに分析し、卓越したリーダーシップで実行してしまう人のことをさすのだろう。原田氏もまさにその代表格だったと言える。日頃多くの経営者と対峙している会計士、税理士の皆さんも、やり手の方については同じように見ているのではないか。経営コンサルも手掛けられている方なら、外様社長のフレキシブルな対応力は参考になる点も多いと思う。

ただ、さしもの原田氏も昨今の逆境は厳しかった。マクドナルドは昨年秋に7年ぶりの減収減益を計上。高級ハンバーガーの投入とフライドポテトの値下げを組み合わせる価格戦略など様々な打開策を打ってきたが、外食産業全体を覆う客離れに加え、アベノミクスに伴う円安も業績を直撃した。後任のカサノバ氏は大学院卒業後にマクドナルドのカナダ法人に入社した現場からの「生え抜き」組。新風を吹かすことができるのか注目したい。

(文/新田哲史=コラムニスト、記事提供/株式会社エスタイル)

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