会計業界の業界動向・トピックス

会計業界トピックス

戦略とストーリーで会計・税務業務の価値は高まる

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北海道標津郡
株式会社オーレンス総合経営・税理士法人オーレンス税務事務所
代表取締役常務 社員税理士 福田直紀氏

1977年北海道標津郡中標津町生まれ。1999年大原簿記専門学校卒業後、札幌市内の税理士事務所に勤務。2005年、オーレンスグループ((株)オーレンス総合経営、(税)オーレンス税務事務所)に入社。当時新設したばかりであった札幌支社の責任者として手腕を発揮。2012年に代表取締役に就任。主顧客とする農業経営者のサポートを通じて、これからの国づくりに資する。

農業特化が会計業界で生き抜くための戦略となる

当社は農業経営者を主顧客として展開しております。農業顧客を軸とした背景には、生まれ育った北海道という故郷に対する思いや、その地域の基幹産業を守りたいという理念的なものがありますが、一方ではドラスティックな企業戦略があります。
この業界を取り巻くマーケットのニーズは、極めて高度な付加サービスモデルとコストメリットの大きな低価格モデルに完全に二極化が押し進んでいくものと予想しております。また、北海道でも多くの地場産業が根付き、税理士事務所も多数存在していますが、「地域密着型」がこの後どこまで利点となるのかはわかりません。これだけインフラ環境が整ってきた昨今においては、受託業務にかかるすべての打合せをテレビ会議やメール等で済ませられることも考えられますので、東京の税理士事務所が中標津町に顧客を持つという状況も珍しいことではなくなることでしょう。
そういったマーケットの大きな変化のなかで中小規模の組織が立ち回るためには独自の強みやカラーを持たなければならず、「なんでもできます」は「なにもできません」と同定義になりかねませんし、また「総合的な経営コンサルタントとして日本でトップを目指す」といっても現実はかなり高い壁があります。何らかの売りを明確に持っていない組織は価格競争の渦中のなかで淘汰されてしまう可能性があります。
そうした状況を見通したなかで、顧客の業種を特化するという企業戦略を打ち立て、選択したのが農業だったのです。

農業経営と広くいっても詳細は畜産、稲作、畑作、果樹、野菜などといった扱う品目により多くの経営があります。農業経営の中でも更に絞り込みをかけ、「この農作物を取り扱う農業経営の財務コンサルであれば日本で誰にも負けない」というような、一点突破型の超高付加サービスモデルを各人別にラインナップとしてどれだけ作っていけるかが、当法人の最終的な到達イメージとなります。
また、実際に現場で立ち回るスタッフが自信と誇りを持てるサービス・商品をより多く揃え、従業員に高い目標やビジョン、遣り甲斐を持ってもらいたいという想いも同時に重ねております。

もう一方の低価格モデルのニーズに対する備えといたしましては、生産性の向上に向けた話となりますが、やはり農業顧客に特化したスタイルが大きく貢献しております。
原始書類の保存の在り方、月次試算表に対するニーズ、特殊な税法特例など受託業務の完了に至るまでのプロセスが、農業経営者と一般企業とでは異なる部分が多く、四苦八苦したところはかなりありました。しかし、それらも逆に考えると同業者の参入障壁の高さにリンクしている部分が多く、十数年前から戦略的に動いてきた当社の業務消化ノウハウにかかるイニシアティブは大きなものになっています。
今後も作業工程の見直しや農業関連機関との連携体制をより深めることにより、更なる生産性と品質の向上を目指し、実行し、イニシアティブをより強固なものにしていきます。

設立経緯と強み

オーレンスグループは、1970年に個人事業である「福田紀二税務事務所(現(税)オーレンス税務事務所)」として創業したのが始まりです。
1981年に地方の情報産業発展に寄与するため「中央コンピューターサービス(株)」、1989年に企業経営者に向けた情報支援環境の受け皿として「福田経営センター(株)(現(株)オーレンス総合経営)」、1996年に地域の情報通信環境支援として「(株)オーレンス」とそれぞれ設立した中で、グループ全体として地方における情報過疎を排除すべくその総合的な活用と発展に重きをおき、活動してきました。
創業当時、まだまだパソコンも大衆化されておらず、インフラ環境が整っていなかった頃から時代の動きの先を行くことに長じており、それが今日の社風の礎にもなっています。
原点である税理士事務所が核となりグループ全体で発展し、一般経営者の目線に近い経営スタイルを実現できたのは、税理士でありながら税理士という観念に固執せず、グループ内のそれぞれの法人が独自性をもち、切磋琢磨し、いい影響力を与え合うという風土風習が古くからあったからだと思います。 また、そんなグループ会社の影響により早い時期から手がけてきた会計ソフト等の自社開発のノウハウは現在でも活かされており、受託業務にかかる高い生産性を生み出せている要因のひとつです。

中標津町のある北海道の道東エリアを中心に展開していましたが、ここ十年で帯広市、札幌市など道内各所に支社を設立し、エリアを拡大しました。道東エリアの顧客は長く当社を支えていただいた一般企業の顧客も数多くありますが、支社展開においては農業以外の関与は大幅に抑制する戦略を貫いたため、顧客の内訳を見ると農業および農業関連企業の顧客がほぼ100%という状況です。
政令指定都市である札幌市には北海道における税務、金融、人材等のさまざまな情報が集約してくるため、関係機関とのパイプを築くことも支社展開の目的のひとつでもありました。今後は農業が盛んな他府県エリアへの進出も検討しており、少しずつではありますが、パイプを構築しているところです。また情報という観点からは東京への展開も視野に入れなければなりません。

当社の特徴は大きく3つあると考えています。1つはこれまでにも申し上げてきた顧客の業種特化、2つ目はシステム的なバックボーンがグループ会社内にある点、そして3つ目は分業化の体制です。
お客様から原始書類をお預かりし、それを元に試算表を作る、試算表から決算書を作る、そして申告書を作るという製造ラインをベルトコンベア式に流れるように処理できる体制を整備しており、その受け皿となる専属部門を約3年前に立ち上げました。現在まだイメージ上の完成には到達しておりませんが、生産性の向上に大きく貢献しています。社内ではこれをBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業と呼んでおり、最終的には顧客の決算・申告にかかる作業のほぼすべてを補えることを目指し、更に発展させていきます。
また先の展開においては、農業顧客にかかる業務処理のノウハウを同業者にスライドさせ、農業顧客をもつ地元の税理士事務所と連携できるようなワークフローのビジョンも検討しております。地元の税理士事務所とその農業顧客を絡めてお互いが何らかの利益を供与できる体制又はビジネスモデルを構築していければと考えます。
農業に特化した税理士事務所というオンリーワンをさらに邁進するため、また農業全体の発展に寄与するためにも様々な関係機関と連携できる環境を整備することは避けられない道となることでしょう。

現在に至るまでの苦労や失敗談

私自身がこの会社に入社したのは2005年のことで、それまでは札幌市内の税理士事務所に勤務していました。当時、税理士業務の全般に関してそれなりのレベルで理解していたつもりではありましたが、顧客の経営に深堀して貢献したいという漠然とした思いがあったのを覚えています。
税務申告や経理処理に限った話では顧客にアドバイスできたとしても、経営の本質に触れる話を経験の浅い一税理士が行うには非常に高いハードルがあり、税務のプロフェッショナルであることに加えて、顧客の業界に精通した知識が必要であると考えておりました。そんな時に当社の札幌支社開設の話を聞き、入社を決意した次第です。また、生まれ育った故郷の地域産業を支えてきた農業をサポートできるというのも決意した要因のひとつです。

そうした経緯で入社はしたものの、札幌支社の開設当時はまだ事務所の場所も決まっておらず、私の自宅が事務所という始まりでした。様々な方の支えもあり、責任者となりましたが、当然、経営の右も左もわからない一介の税理士が立ち回るには困難の連続でした。
人材の採用・教育、新規営業、受託業務の消化、新たな商品開発、技術習得、予算管理、業界情報の収集等、どれも初めて行うことばかりで最初の2年間は失敗ばかり。その中でも一番ネックとなったのは新規営業や受託業務の消化に伴う移動距離の長さです。なんといっても北海道は広大です。当初は支社開設時のエリア区分で北は稚内、南は函館という北海道のほぼ西半分のすべてが札幌支社の担当エリアという大雑把な割振りでした。
そして顧客のすべてが農業経営者ということで、当然、札幌市内には顧客は1件もおらず、一番近い現場でも片道1時間、一番遠い現場は片道4時間というタイムロスを補って採算を合わせなければならないというミッションが一番過酷でした。
現在では広大なエリアの中でも顧客の分布が集約されてきているのとスタッフの拡充で緩和傾向に働いていますが、すべてが解決できているわけではありません。更なる北海道内の細やかな支社展開とインフラの上手な活用で緩和していきたいと考えています。

農業経営者のご要望は若干特殊な部分があります。月次で試算表を作るべき、または四半期試算表を作るべきというのが当初の私の固定観念としてありましたが、農業においては必ずしも月次試算表はマッチしません。酪農のように毎月定額収入のあるような業種であれば別ですが、一毛作の稲作などの場合は、月次どころか四半期で締めて数字を管理することにも価値やニーズがない場合があります。訪問時期やサイクルも経営者の農作業スケジュールや扱う農作物の種類によって異なり、かなり変則的だと思います。そういった業種業態に応じたニーズをビジネスモデルに落とし込むのには苦労しました。

多くのハードルはありましたが、地道な営業活動によって農業経営者からの小さな信任を一つ一つ積み上げることで、着実に組織を成長させていくことができました。
生産性、効率化、品質にも業種特化しているからこそ打てる一手・二手があるので、売上獲得のプレッシャーは相当苦しかったのですが、妥協せず、信念を貫くことが出来て心底よかったと感じております。困難は多くとも有難い環境・ステージを与えてもらったものだと感謝する毎日です。

現在、売上のウエイトとしてはまだまだ本社エリアである道東の比重が多いですが、その他のエリアも10年と経たない中で大きく飛躍してきました。サービス内容自体は、現状ではそれほど斬新なものではありませんが、本格的に農業顧客獲得に着手する同業者プレーヤーが少なかったのも追い風の一つだったのだと思います。潜在ニーズを持つエリアはまだまだあり、これからも活動エリアを広げていくと同時に、新たな商品価値を生み出すことにチャレンジしていきたいと考えています。

お客様が求められるニーズは千差万別ですが、それを満たせたときに「ありがとう」の一言が励みになり、推進力になっています。農業は日本の国を支える基盤であり、これが衰えてしまえば経済や外交、国防など、あらゆる観点で国際競争力に影響を起こしてしまうでしょう。非常に遠くからですが、日本の農業をサポートする一端を担えていることもモチベーションにつながっています。
当社でやりがいを持って働ける人というのは、知的な技術を駆使することよりも、人や地域への貢献を大切に思える人なのだと思います。

カイケイ・ファンをご覧の皆様へ一言

一般的な見解としては、この税理士業界のライフサイクルは成熟期を過ぎたといわれます。
また日本全体の人口減少などの理由から、マーケットサイズは縮小に働き、地域市場構成も一強他弱傾向が強まることも否めません。更にはそれらに伴って税理士事務所の数自体も減少していくことでしょう。
しかし、暗い話ばかりかというとそうではなく、高い志とそれに伴った戦略を持った中小規模の組織は、逆に売上を増やして規模を大幅に拡大できるチャンスが多く訪れる未来を想像しています。
「税法を知っています」というだけで、価値があるかといえばそのようなことは決してありません。その知識・情報がなぜ今あなたに必要なのか、正しく伝えるストーリーを紡ぐことができれば、もっともっと表現者としての価値を高めていける業界だと信じて疑いません。
閉鎖感の強い社会情勢のなかで自身の夢やビジョンを叶えようと立ち回るには、時に外圧と戦わなければならないし、それが高い障壁となる場合もあります。しかし、考え方と戦略の持ち方次第で、越えられない壁はないかと思います。これからこの業界に飛び込まれる若い方々と共に未来に明るい希望とビジョンをもって業界全体を盛り上げていければと思います。
(2013年11月14日掲載)

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