最近は「ドッグイヤー」という言葉が死語になってしまったが、ことウェブが絡む分野は日進月歩だ。都心部で大半の仕事をこなしているが、たまに地方へ出張すると、忘れていた「原点」のようなことを思い出させてくれる。先日、関東地方の田舎の県に出張し、地元の税理士と懇談する機会があった。これがとても面白いので紹介したい。
アベノミクスの恩恵と程遠い地方経済
アベノミクスで大企業の賃上げはされたが、東京から2時間も離れた地域に足を踏み入れると、地域経済への波及なんてほとんど感じられない。相変わらずシャッターが降りたままの商店街、駅前は活気がなくて、お年寄りに交じってたまに若者がいるかと思いきや、ジャージや制服をだらしなく着こなす「マイルドヤンキー」ばっかりだ(笑)
今回の出張先は全国に響くような大型産業があるわけでもないので、そうした停滞感が漂う典型的なエリアだった。マーケットがどんよりしていればビジネスは成立しづらい。聞くところによると、新規の法人設立も年間数十件程度で、年間で新規開拓が5件もいけば御の字というのが地元税理士たちの間で「相場」になっているという。しかし、その税理士は毎週のように新規顧客を開拓し、止まらないほど繁盛している。
地方ではウェブでお客は来ない
その税理士は独立開業して6年ほど経つらしいが、当初の2年はゼロに近い売り上げだった。これが都会なら、ウェブを使って見込み客を増やす算段が立つところで、その税理士も200万円ほど投資してホームページ等を制作し、SEO対策もかけたが、全くといっていいほど流入がなかった。理由は簡単。事業者のなかでウェブを使いこなす若い人が少数派であり、「顔見知り」の間での口コミがものをいうオフラインビジネスの“独壇場”なのだ。
これは私が手掛ける選挙の仕事とも通じるところがある。ネットを使った選挙活動が有用で話題になるのは都市部、それも東京の選挙区に限定されがちだ。いや、選挙業界の最大“顧客”は確実に投票所に足を運ぶシニア。ウェブに触れる機会がめっきり少ない人たちであり、都内でも下町あたりに行けばその比率は高くなる印象がある。
税理士が地方でお客をつかんだコツ
しかし、一見難しい市場でも、競合に対して徹底して差別化できる要因があれば、一定の支持は集められる。そこで、この税理士はサービスに徹する戦略に出た。といっても特別なことをしているわけではない。とにかく相手の話を聞く。起業したばかりの事業者は常に不安感を抱えており、東京のように経営コンサルティングを頼める人が多い環境もない。だからこそ初めての顧客が来たときには数時間、多い時で半日は相談に乗るのだという。
そうすると、「あの税理士の先生、面倒見がいいよ」とじわじわと噂が広がっていく。1人が3人を呼び、3人が10人を呼び……ということに繋がる。時には社長の車の掃除やパソコンのプリンターのインク交換のような雑用まで積極的に引き受ける。地方都市では、国税局OBを始め、「先生」と“崇め”られることに慣れてしまい、お客と会うのは年に1回あるかどうかという税理士も少なくないそうだが、この税理士のサービスぶりは群を抜いている。開業から5年経った近頃は、問い合わせが連日ひっきりなしだ。
濃密なコミュニケーションを取れるか
結局、選挙で握手が効果的と言われるように、リアルで顔を合わせ、濃密なコミュニケーションを取っているかどうかが地方では重要になる。ついつい忙しくて、スタッフに対応を任せているというような人はいないだろうか? さすがに、車の洗車は無理かもしれない。しかし、何かきめの細かいサービスで差別化することは、都会だろうが地方だろうがビジネスの基本的な戦い方といっていい。
(文/新田哲史=コラムニスト、記事提供/株式会社エスタイル)
カイケイ・ファン ナビゲーターによるコメント