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【会計士Xの裏帳簿】書面添付で「税務署と税理士の関係」を再確認する

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3月決算の業務が本格化してきました。当コラムでは、会社が適時に会計を行うこと、信頼性の高い決算書を作ることの重要性を何度も指摘してきましたが、この時期に、顧問先から強調されがちなのが「税務調査が入らない申告書を作って欲しい」との要望です。

書面添付で税理士の「お墨付き」

「税務調査が入らない申告書」という観点から盛んに語られる制度があります。税理士が所定の事項を記載した書面を申告書とともに提出する「書面添付制度」です。税理士会や会計人団体も強く推進しているだけに、付加価値業務として取り組んでいる方もいらっしゃると思います。

書面添付がある場合、税務署が税務調査を実施する際、税理士に対して事前の意見聴取を行うとされています。意見聴取の結果、疑問点が解決されれば、実地の調査が省略されます。申告書に税理士のお墨付きを与えることで、信頼性を担保する制度と言って良いでしょう。

意見聴取により実地の調査が見送られる場合、税務署から「今回は税務調査の対象とはしません」という意味の書類が届きます。この通知は、目に見える形で、「調査を回避した」とわかるものであり、達成感を感じられるものです。顧問先に対しても鼻高々で報告できます。

とはいえ、書面添付の書類の記載事項は、税務署が調査対象の選定において「怪しい」と重視する処理について。こちらから「手の内」を明かす様なものでもあります。添付書類の項目を埋めながら、「こんなことを書くと余計に調査対象となりそうだな」と苦笑したことのある税理士も多いのではないでしょうか。

税務署と企業、それぞれの思惑

私は、書面添付の「税務調査を避ける」効果を否定しているわけではありません。

しかし、書面添付制度を導入したのは、課税当局が注視する取引を自ら開示させ「税務執行の一層の円滑化・簡素化を図るため」(国税庁HP)であることは意識しておくべきです。行政と民間の対立関係を過度に強調する必要はありませんが、課税徴収を使命とする当局と顧問先を守るべき税理士では、根本的に目指す方向が異なります。

書面添付が、税理士にとっての付加価値業務となり、また税務行政が円滑化するという「WIN-WIN」の関係であるならば、対立をブレークスルーする素晴らしい制度となるのでしょう。

しかし、税務調査対象の選定は、結局のところ行政の裁量。税理士が「調査を行わせないこと」を保証するのは究極的には不可能です。税理士の価値が、調査の有無だけにかかっているのであれば、税理士を生かすも殺すも行政の「胸先三寸」になってしまいます。

書面添付に取り組む税理士が考えるべきことは、税務調査の観点以外でも、顧問先に「書面添付をすることはあなたの会社にプラスになるはずです」と自信を持って言えるのか、ということだと思います。

税務調査を避けることは経営の真の目的ではありません。しっかりとした会計基準をもとに決算書を作り、書面添付に耐えられるような外部開示を行うことの重要性は、金融機関や取引先との関係からも間違いなくあります。書面添付を、顧問先に対して会計の「本当の価値」をプレゼンするきっかけにしたいものです。

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